ウェルビーイング戦略の3つの要点

ー 中小企業トップの戦略投資としての組み立て

<もくじ>

1.ロジックモデルでの業績向上シナリオ

    • ビジョン仮説
    • 定量的な目標設定
    • 実践と軌道修正が前提

2.経営改革の位置付けで構想を練る

    • 惹きつける対象としての社員
    • エンゲージメントを高める
    • トップ・推進担当・社員の三位一体プロジェクト

3.投資対効果(ROI)を算出して検討材料にする

    • コンディション不調の解消の目論見
    • 投資の中心は変革プロジェクト
    • 「リターン3倍」を鵜呑みにしない

4.まとめ

ウェルビーイング戦略とは、社員のコンディションを改善する戦略投資で、人材パフォーマンスの向上が目的です。人手不足に悩み、今いる人材に実力をフルに発揮して欲しい中小企業では、特に大切です。
 
コンディション低下には、身体的・心理的・社会的な要因が絡んでいます。よって、社内の実態をしっかりと見極め、きめ細かな施策の企画が必要です。
 
仕事に対する社員の活力や熱意が高まり、わが社で働き続けて貰いたい! そのために、組織マネジメントの考え方や社内カルチャーのあり方から変えていきます。コンディション増進のイベントを提供するだけではありません。
 
業績向上を狙う経営改革では、経営トップの手腕が問われます。ウェルビーイング戦略も同様で、それに向けた構想立案をしっかりと行うことが効果獲得のキーポイントです。

ロジックモデルで業績向上シナリオをつくる

ロジックモデルとは、施策が成果を上げるために必要な要素を、体系的に整理したものです。ウェルビーイング戦略のビジョンやありたい姿について、考察を深めるのに活用できます。
 
これは「経営トップの思いや狙い」をストーリー化するためのツールとも言えます。波及効果の流れなどは、やってみないと分からないのが現実ですが、大きな方向性を社内メンバーと共有することができるので、改革への取り組みの後押しとなります
 

ロジックモデルでのビジョン仮説

各施策に投入される経営資源、直接のアウトプット、それがもたらす直接/間接の成果、そして経営課題の解決に至る「目論見の流れ」をビジュアル化します。
 
個々の施策が取組全体の中でどのように位置付けられて関連し合っているのか、そして経営課題の解決にどのように結びついているのか・・といったダイナミズムを検討するたたき台となります。この議論を通じて、経営課題の解決に向けた阻害要因を洗い出し、優先順位を見極めます。
 
業績向上のための経営課題(特に、人的資本の関連)がテーマの本質です。最終成果→中間成果→直接成果・・と、逆算して施策をデザインします。「施策ありき」で検討するものではありません。
 
 
その結果、大きな方向性とターゲット目標が示され、具体的な施策設計や、進捗状況に合わせたタイムリーな軌道修正のための指針として機能します。
 
 

定量的な目標設定

成果の検討においては「定量的な目標づくり」が不可欠です。それがあるからこそ、達成度・進捗状況をモニタリングして、機動的に対策を繰りだすことが可能となります。
 
健康経営優良法人を狙う企業では、「戦略マップ」をホームページで公表しているところもあります。しかしながら、数値目標まで外部に示す企業は非常に少ないです。とはいえ、内部ではしっかりと評価基準(KPI)を設定して、活動を推進しています。
 
企業規模・業界・社員のコンディション状況などが違うので、単純に真似することはできません。が、業績向上を狙う中小企業の経営トップにとっての参考材料はたくさんあるので、ぜひ、ネット検索などで閲覧してみてください。
 
 

実践による軌道修正が前提     

「施策の有効性は、やってみなければ分からない」という大前提に留意しなくてはなりません。実践で検証しない限り、単なる「絵に描いた餅」です。
 
考えることが多すぎて、行動に移れない・・という落とし穴は、避けなくてはなりません。業績向上シナリオをスピード重視で描き、その有効性を検証するための「小さな社内実験」を急ぎます。期間限定・対象者限定で、描いた構想を実践で確かめます。

経営改革の位置付けで構想を練る

戦略投資の成果を刈り取るためには、導入ツールの選定/行動変容の支援/働く環境の整備などの複合的な施策を組み立てる必要があります。社員のコンディション改善(運動、睡眠、栄養、など)の個別メニューの検討で済まされません。
 
中小企業に必要なのは、業績向上とリンクさせる「したたかさ」です。目的意識と手練手管を鋭く持ちたいです。福利厚生の充実という位置付けではないからです。
 
経営トップのリーダーシップのもと、大きな改革プロジェクトとなります。社員のエンゲージメント(仕事への活力や熱意)を高め、生産性や創造力をフルに発揮して貰える職場への改革です。
 
組織マネジメントの世界観やカルチャーの革新が「ウェルビーイング戦略」の中心テーマです。
 

社員は「管理する対象」から「惹きつける対象」へ

如何にして、優秀な人材をわが社に惹きつけるか? この問題意識を徹底的に突き詰める必要があります。
 
今いる社員(および、将来の入社希望者)が、働き続ける場所・仕事への活力と熱意をキープできる場所としてわが社を選んでもらえなければ、高いパフォーマンスを発揮する組織になれないのが現実だからです。
 
現代のビジネス環境では、社員一人一人の卓越したクリエイティブな創意工夫が不可欠です。浮かんだアイディアを素早く実行。その検証結果をもとに、軌道修正を加えて、次なる一手を繰り出す行動力を自ら進んで実践してほしいのです。
 
そのためには、社員は「仕事への活力と熱意が充実した状態」でなければなりません。したがって会社には、社員の自己実現や成果発揮のサポート役としての環境整備と実行支援が求められます。人材不足に悩む中小企業では、特に大切な発想です。
 
これまでの、社員を「管理する対象」として扱う考え方が、現代のビジネス環境には当てはまらなくなりました。会社の求めにしたがって業務を進めてくれたら、しっかりと成果を出せる・・という前提が崩れたのです。
 
 

社員のエンゲージメントを高める

エンゲージメントを高めるためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか・・?経営トップの決意とリーダーシップが不可欠なのは言うまでもありませんが、組織全体の動かし方や社員同士の関係性のあり方にもメスを入れる大きな改革プログラムとなります。
 
ウェルビーイング関連の社内イベントを開催するだけで、投資効果を引き出せるものではないのです。
 

ーー 会社のビジョンや社会への価値を共有する

自分が取組んでいる仕事が、顧客や社会にどのようなインパクトを与えているのか? どのような価値を提供できているのか?を、社員が実感していることが大切です。
 
そのためにも、会社として目指したい方向性をしっかりと語り合い、社内に浸透させていく努力が不可欠です。
 
これは、決して一方的に「伝達」するものではありません。対話です。ビジョンについて実際に一人一人の社員がどう感じているか、具体的な行動として何をやっているか、を互いにシェアして、共同で思いを膨らませていく・・。そのような取り組みが有効です。
 

ーー 仕事仲間のコミュニケーションを活性化させる

社内の同僚や社外のコラボメンバーとの良好な関係の構築も、エンゲージメント向上に役立ちます。仲間とのつながりを感じることが、困難な課題解決への頑張りや、新しいチャレンジへの勇気につながります。
 
部門横断的なプロジェクトや交流イベントを通じて、コミュニケーションの活性化を図ります。仕事に直接に関係するもの、エンタテーメント的なものなど様々な形式を取り混ぜていきます。
 
ウェルビーイング施策としてのプログラムもその一つとして位置付けられます。
 

ーー 成長志向のパフォーマンス支援を機能させる

「能力やモチベーションの向上」と「目標成果の達成」を同時に実現するためには、個人の業績評価といった過去志向のフィードバックではなく、持続的な成長を促進する未来志向のマネジメント手法へのシフトが必要です。
 
月数回といった細かなサイクルで、会社と個人のビジョンに向けた目標と行動プランを設定し、進捗状況に合わせたタイムリーな軌道修正をかけていきます。本人と上司との1対1対話が主体です。
本人と上司がペアとなって、情報社会の目まぐるしい変化スピードに臨機応変に対応していくスタイルの確立です。
 

 トップ/推進担当/社員の三位一体での変革プロジェクト

ウェルビーイング戦略を通じたコンディション不調の解消には、ライフスタイル全般での「行動変容」が必要です。運動習慣、栄養バランス、睡眠の質と量といった事柄が総合的に絡んだ意識改革と習慣化といった大掛かりな取り組みとなります。
 
社内の機運を高め、一人一人の個性と価値観に合わせた行動変容プランを練り上げ、トライ&エラーからの学びを活かして軌道修正し、活動を継続し効果が定着するまでの地味な活動を互いに支え合う・・。
 
会社全体としての行動変容の状況をモニタリングし、タイムリーな対策を撃ち続ける必要もあります。
 
ここでは、トップと推進担当と社員が一丸となった取り組みが不可欠です。自分たちのコンディションを高め、ビジョン実現に向けた活動で精一杯の成果を上げ続ける・・。長期的な視点からのコミットメントが全員に求められます。

期待できる投資対効果(ROI)を算出して検討材料にする(複数パターン)

ウェルビーイング戦略の基本構想の検討では、投資対効果の算出がベースとなります。改革の取り組みへの投資と期待されるビジネス成果を数値化し、冷静な議論と意思決定の基礎とします。
 
ベスト版・ノーマル版・ワースト版と複数パターンを算出することが大切です。「タラレバの計算」ではありますが、設定した前提条件やROIの算出プロセスを数値として比較・検討することで、投資の正当性の評価につなげることができます。
 

コンディションの不調解消の目論見

業績向上シナリオで検討した「波及効果の論理フロー」の実現性を見極めます。トップを中心に経営幹部による「直観と感性」をフル回転させます。社内に過去の経験はなく、他社でも確立されたノウハウは存在しないからです。
 
社内のトップリーダーたちによる議論を尽くすことで、あらゆる想定を洗い出したいものです。そして、最後は経営トップによる英断・・となります。
 

投資の中心は変革プロジェクト

投資項目は、多岐にわたります。社内改革に関わる様々な取り組み・ライフスタイルでの行動変容を支援する施策・状況をモニタリングする仕組み・コンディション不調にアプローチするプログラムやイベントなど様々あります。
 
「改革プロジェクト」としての取り組みであるからこそ、大きな投資が発生します。
 
。戦略投資がしっかりとビジネス成果として身を結ぶためには、やるべき施策の全体像を投資として括ることをが不可欠です。
 
 

「リターン3倍」を鵜呑みにしない

健康経営のメリットを語るときに、「1ドルの健康投資に対して、3ドルのリターン」というフレーズが良く使われます。
 
しかしながら、ROI 300%というのは、投資対効果があまりにも大きすぎて、すんなりと頭に入ってこない経営トップが多いです。あからさまな不信感を抱く方も少なくありません。
 
「社員のウェルビーイング向上への戦略投資は意義が高いですよ」というニュアンスとしては大賛成なのですが・・。
 
健康経営やウェルビーイング戦略を勧める立場の人々の中には、投資項目を過少に想定してしまう例もあるようです。
 
社内全体へのメッセージの浸透や行動変容への支援などの地道な改革施策にまで、意識が及んでいない場合が多いのではないかと推測されます。決して意図的に誤魔化しているわけではないはずです。
 
社内のカルチャーやコミュニケーションを大きく変革するプログラムです。それを推進するための投入工数やインフラ整備には、それなり以上のコストがかかります。運動イベントや健康セミナーなどの施策だけで、ライフスタイルでの行動変容を実現することはできません。
 
これらを総合的に組み込んだ基本構想を練り、その投資対効果を数値としてしっかりと評価していく・・。このようなスタンスが経営トップに求められます。

まとめ

社員のコンディション改善を、本人のウェルビーイング向上と会社の業績向上に結びつけるためには、戦略投資としての基本構想が不可欠です。業績向上シナリオを組み立て、組織マネジメントを大きく変える改革プロジェクトとして覚悟を決め、投資対効果を綿密に評価しながら意思決定に繋げる・・。
 
事業投資やIT投資などと変わらぬ発想と企画力で、ウェルビーイング戦略の企画と実践を行います。