- 健康経営の定義
- 健康=ウェルビーイング
- イキイキアクティブな社員
- 「健康だが不調」な社員が現実
- 業績向上へのプラス効果
- 代表的な取り組み効果例
- 組織力強化の人材投資
- 6ステップの導入プロセス
- 健康優良法人とは
- 認定取得のメリット
- 認定取得のステップ
- 健康経営銘柄とは
生産性向上のニュアンスで語られることが多い「健康経営」。大手企業を中心とした取り組みの広がりや、政府による積極的な推進により、経営関連のキーワードとして目にする機会が増えています。
一方で、「健康」と「経営」という異質な単語の組み合わせに、無理矢理に組み合わせたような違和感を覚える人も少なくありません。
結論から言えば、従業員の活力や熱意(従業員エンゲージメント)が高まり、職場での集中力や創造性などのパフォーマンスが期待できる人材強化の経営アプローチです。大きな効果が引き出せます。
しかし、そもそも健康経営とは何なのかという定義や、政策として健康経営を推進している理由、導入に積極的な企業が増えている要因、社会的な背景なども知らないと、具体的にはイメージしづらいものです。
本コーナーでは、健康経営の意味合いや検討の進め方について、経営的な視点から整理していきます。
健康経営とは何か?
健康経営の定義
『健康経営とは、社員のコンディション強化を通じてパフォーマンス向上を狙う経営改革への投資』と弊社では定義しています。会社が行う人材投資の一つという位置づけです。
政策として力を入れる経済産業省による定義がよく参照されます。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
従業員の健康は、企業を成長させるための大切な「資産」と捉える価値観が根底にあります。
ここで大切なのは「健康」という言葉のニュアンスです。単純に、病気でないこと・・の意味で捉えると、経営改革のための重要な着眼点を見落とすので要注意です。
健康 = ウェルビーイング
健康経営で目指す「健康」の特徴は、「すべてが満たされている」というニュアンスです。単に病気や怪我から回復したり、予防するということにとどまりません。
病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
日常的に使っている健康の意味合いよりも「広い」と感じる方が大半なのではないでしょうか。肉体的・精神的・社会的に「イキイキと働ける社員」は、その潜在力をフルに発揮して高いパフォーマンスが期待できます。従業員の皆さんがそういう状態をキープできることは、本人にとっても、会社にとっても良いことなのです。
反対に、同じ潜在力を持った人でも、ヨレヨレ・クタクタでは100%の実力発揮が期待できません。
日本WHOは「すべてが満たされた状態」と訳していますが、ぴったりの日本語がありません。そこで本稿では「ウェルビーイング」というカタカナ用語をそのまま使います。
「イキイキ・アクティブな社員」のウェルビーイング職場
会社のビジョン実現には、活気と熱意に溢れる従業員の力が不可欠です。最大の経営資源と言っても過言ではありません。わが社で働くみんなが100%のチカラを発揮して仕事にとりくみ、1日の終わりにはやり遂げた充実感にたどり着きたいものです。この毎日の積み重ねが、一人一人の自己実現に近づくことになり、会社の業績拡大にも好影響してきます。
しかし、肉体的であれ、精神的であれ、社会的であれ、「ウェルビーイングでない状態」はパフォーマンス低下を生じます。
広い意味での「従業員の健康問題」です。
これは、会社にとって解決して、ウェルビーイングに満たされた職場/会社を目指したいものです。
「健康だけど不調な社員」が職場に溢れる現実
実際のところ、「働く人の間では、病気や怪我以外の不調によるパフォーマンス低下によるコスト発生が圧倒的に大きい」という調査が報告されています。
年間労働生産性の損失は、ひとり年間76.6万円。そのうち、プレゼンティーズム(注)は73.0万円
体調不良がない時に発揮できる仕事の出来を100%とすると、過去4週間は76%だった
弊社が支援させていただいたお客様企業でも、不調によるしごとのパフォーマンス低下を自覚する人は8割以上。ところが、そのうちの7割は、「不調なところがありますが、おかげさまで健康です(笑)」と答えました。
病院に通っていない・薬を服用していないので「健康」・・と考える人が多数派です。仕事のパフォーマンスを高めてもらいたい会社としては、「健康だけど不調」という社員に対策を考えないわけには行きません。
健康経営の導入効果(メリット)は何か?
業績向上へのプラス効果
従業員の「ウェルビーイング」は、パフォーマンス向上に効きます。イキイキと仕事に取り組む方が、ヨレヨレの時よりもたくさんの成果を生み出すことは、感覚的に理解できます。
従業員をイキイキ・アクティブにする投資を意思決定するためには、会社にとっての価値(経済効果)の見極めが、経営トップには不可欠です。
トップとしてのリーダーシップの「見せ所」といっても過言ではありません。
ウェルビーイング(健康)投資の効果波及をどこまで捉えるか・・?がキーポイントです。直接的な経済効果の数値化が難しいものもあります。それであっても、投資の目論みと論理的根拠を議論するには、避けて通れません。
代表的な取り組み効果例
これらの「わが社なりの組み合わせと、波及の流れ」を経営の視点から判断します。
個人パフォーマンスのアップ
脳の認知機能が向上し、創造性が増したり、問題解決が効果的になります。また、取り組み姿勢が変わり、協調性が高まります。さらには、心肺活動や免疫機能等が良くなるので、疲労回復が早くなり、活動エネルギーが増加します。
会社のウェルビーイング(健康)への取り組みに共感が生まれ、社内カルチャーがよくなります。その結果として、職場との一体感がたかまり、従業員の仕事への「活力や熱意(=エンゲージメント )への好影響が及びます。
離職率の低下
働きやすい職場として、従業員からの会社への信頼や期待が高まります。ウエルビーイング投資に消極的な企業と比較して、積極的な企業では10ポイント以上も離職率が低かったそうです
健康経営に真摯に取り組み、従業員を大切にする企業は、企業イメージが向上します。結果として、採用コストが低下します。就職先に臨む勤務条件としても「従業員の健康や働き方に配慮しているか?」について、就学生本人もその親も重視しています。
疾病予防にもつながることから、傷病手当等のコストが下がります。長期的に見ると医療費の上昇を抑制することができ、健康保険料率の上昇をさけることもできます。
健康経営(ウェルビーイング戦略)の導入ステップ
組織力強化の人材投資
「仕事への活力と熱意のある従業員」が実力を存分に発揮する会社・・。経営トップとして、ありたい組織の方向性は明確です。
中小企業での健康経営の中心テーマは、(広い意味での)健康、すなわちウェルビーイングの増強です
日本以外では、健康経営(Health and productivity management)の単語よりも、ウェルビーイング戦略(Well-being strategy)の単語を使うようです。
会社のパフォーマンス向上に欠かせない人材投資の施策です。
6ステップの導入プロセス
健康だが不調・・・ 。コンディション不良がもたらすパフォーマンス低下は、(これまではクローズアップされることは少なかったが)大きな経営問題です。
少ない人員で安定経営や業績拡大を狙う中小企業にとっては、社員が抱える不調の解消は優先度が高いです。「個人任せ」にすると解決しないまま、大きなパフォーマンス損失が持続するだけ・・が中小企業の抱える現実です。
経営トップとしては、「社員の実力発揮の最大化」を追戦略目標として、体系的に対策を打ち出したいものです。
先行企業では、段階的なアプローチで、健康経営・ウェルビーイング戦略の導入に取り組んでいます。
ステップ1:問題意識の共有
従業員のコンディション(健康やウェルビーイング)の問題とパフォーマンスの関係などの考え方や事例を、新しい経営改革の着眼点として社内のメンバーと共有します。
ステップ2:現状の把握
健康経営という観点から自社を点検した経験は少ないはずです。各人のウェルビーイング感・コンディションに関する自覚症状・仕事への活力や熱意・パフォーマンスの発揮状況などから社内の状況を明らかにします。
ステップ3:ビジョンの策定
会社の上層部と現場層が一体となって、組織のありたい姿を言語化します。各人が潜在力を存分に発揮できる職場やライフタイルのあり方、互いの関係性もふくめたストーリーを作り上げます。
ステップ4:テスト版の試行
「本当に効果があるか?」の議論で時間を浪費するのではなく、「小さな実験で取り敢えず確かめてみる」のスタンスで素早く検証に乗り出すマインドとスタンスが大切です。「従業員の行動変容を実現するための、有効な支援のあり方」が中心のテーマとなります。
ステップ5:施策の本格展開
ベストコンディションを実現し、ウェルビーイングを実感してもらいたい・・。従業員の一人一人の新しい行動様式の実現にむけた会社としての支援活動(=人材投資)を本格的に実践します。社内の人々に、認知してもらい、共感してもらい、体験してもらう。社内に向けたプロモーション活動とサポート提供の仕組みを確立します。
ステップ6:改革の継続
社内カルチャーとして定着するように、コンディション磨きの実践を継続します。健康経営/ ウェルビーイング戦略に基づく一人一人のビジネス行動が、顧客や市場への提供価値の向上につながり、ブランド価値を高める結果を生み出します。
健康経営優良法人の認定取得のメリットは何か?
健康経営優良法人とは
経済産業省の全面的な支援のもとで、日本健康会議が「健康経営に特に優れた企業」を健康経営優良法人として顕彰する制度です。「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」の2つに分類されます。大規模法人部門の中でも、特にレベルの高い上位500社は「ホワイト500」に認定されます。
認定を取得すると「認定マーク」が付与されます。このマークは、自社製品やホームページ、求人広告にも掲載することが可能で、「国の認定を受けた企業」としてPRにつなげることも可能です。
認定取得のメリット
従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人としての「社会的評価」のお墨付きを得られる・・がメリットです。具体的には、次の項目が挙げられます。
ブランドイメージ
経済産業省のホームページに社名が記載され、認定のロゴマークを広報活動に利用することができます。これらを、顧客や取引先に対してPRすることができ、企業イメージの向上につなげることができます。
採用市場での競争力
就職希望の学生は、企業での働きやすさや健康への配慮を重視しています(彼らに影響力のある親も同様です)。したがって、国からの認定は、彼らに対して強くアピールするものとなります。
優遇制度
認定企業に対して、自治体や金融機関からの優遇制度が整備されている場合もあります。例えば、低利での融資や、入札での加点評価などです。
健康優良法人の認定取得へのステップ
大規模法人部門・中小規模法人部門ともに、認定基準は、「経営理念(経営者の自覚)」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」「法令遵守・リスクマネジメント」の5項目です。毎年7月に詳細項目が公表されます。
したから2番目の「認定審査」以降の流れは共通ですが、そこまでは大規模部門・中小規模部門で異なる流れとなっています。詳細は、上記の経済産業省のリンク先を参照ください。
健康経営銘柄とは
東京証券取引所の上場会社を対象として、健康経営に優れた企業を原則1業種1社選定するものです。また、経済産業省と東京証券取引所との共同で行われているものです。
健康経営優良法人の顕彰制度とは別のものですが、経済産業省のヘルスケア産業政策の枠内で連携を取りながらの制度です