変革推進チームがチェンジマネジメントで結果を出す3つの要点

ー 組織変革を主導する部隊の作り方

<もくじ>
 

1)役割をフェーズで進化

    • ビジョン策定
    • 実行プラン立案
    • 開発
    • 実施

2)メンバーの特質

    • 支援型リーダーシップ
    • マーケティング発想
    • 現場ファースト精神
    • 雛形づくり志向

3)チーム配置の仕方

    • プロジェクト限定型
    • ローカル分散型
    • 全社横断型
    • 折衷型

4)大切なのはアジャスト能力
 

 
変革推進チームを編成して、組織変革の実現をスピードアップを図る企業が増えています。描いたビジョンや戦略を、徹底的に実行できる組織能力を高めたいのです。
 
チームには、チェンジマネジメント(変革推進)の高い志と巧みな手腕が求められます。経営トップの号令だけでは、現場に浸透・定着することができないからです。
 
しかしながら、経験とノウハウが不足で、変革推進に四苦八苦している・・というのが実態です。
 
経営トップとしては、うまく機能していない兆候を早く捉え、それを補う施策を打ちたいものです。
 
変革推進チームを通じてチェンジマネジメントで効果を上げるには:
 
・役割を、フェーズ毎に進化させる
・メンバーを、4つの特質で選出する
・組織構造を、社内状況で使い分ける
 
の3つ要点を押さえる必要があります。
 
 

 対策1)推進チームの役割を4つのフェーズ毎に進化させる

組織変革のプロジェクトは、大きく4つのフェーズから構成されます。①ビジョン策定フェーズ、②実行プラン立案フェーズ、③開発フェーズ、④実行フェーズです。
 
これらのフェーズに合わせて、変革推進チームの役割を進化させます。
 
ビジョン策定フェーズでは、戦略ファシリテータの役割が求められます。経営トップをはじめとした経営幹部が、組織変革の方向性やありたい姿を議論するのを支援します。変革推進チームは、幹部クラスの少人数で構成されます。
 
ここでは、企業パーパスや事業目標に向けた戦略方針や組織のあり方の共通認識を形成し、組織変革を進める上での事業部門トップの役割を明確化し、現場へ展開し定着化させるための基本アプローチを定義し、変革活動の進捗状況をモニタリングするための仕組みの骨子がまとめられます。
 
変革推進チームは、たたき台の提供・情報の収集・議論の活性化のサポートをします。
 
実行プラン立案フェーズでは、実務支援者の役割が求められます。経営幹部が定めた組織変革の大きな方向性を、現場部門が具体的な達成課題や活動項目へと展開するのをリードします。
 
事業ラインや機能部門のトップと中核リーダーが、自分たちの領域でのターゲット目標や変革ビジョンをしっかりと理解するのを助けます。また、立ちはだかるであろう困難/ハードルや、それを克服するための施策や必要資源の見極めも支援します。
 
どのようなビジョンや実行プランであっても社内では未経験で確証のない事柄ばかりです。何らかの「試作プロトタイプ」を実験的に行って、策定したプランの有効性や実現性を検証することも大切です。
 
変革推進チームは、現場部門に対して「アイディアや事例の提供」「プラン構築の側方支援(テンプレート、たたき台づくり、検証活動)」を行うと共に、経営幹部に対しては「変革の全体像と個別プランの整合性やバランス」「現場の変革浸透のスムーズさやチャレンジ」などをフィードバックして大方針への反映を支援します。
 
開発フェーズでは、現場監督の役割が求められます。前のフェーズで立案されたプランに基づき、準備項目を整えたり、必要なシステムを揃えたり、現場人材に対するトレーニングコンテンツを構築したりする現場の各チーム内や相互の問題解決などを行います。
 
このフェーズからは、より現場の第一線が細かな開発作業に巻き込まれてきます。幹部や上級リーダークラスが主体の議論だったこれまでとは違い、変革推進チームの影響範囲もより広くなります。よって、人数も実務クラスを中心に多く投入され、個別の事業部門や機能部門に配置されることが多くなります。
 
そのような人材は必ずしも高いポジションである必要はなく、若手が多くなります。それでも、組織変革のビジョンをしっかりと理解し、達成課題や各種の支援ツールに精通し、支援先の事業領域についての豊富な知識を持つことが望ましいです。
 
最後の実施フェーズでは、見守り隊の役割が求められます。各現場のメンバーが、新しいマインドセットと行動様式への変容が順調に推移し、これまでと違うワークスタイルで業務を遂行できるようになり、新導入のツールを的確に使いこなせているか・・これらをしっかりとモニタリングします。
 
当初の目論見とは違う事態が、当然のように発生します。現場メンバーの問題解決を助け、実行プランを軌道修正(ピボット)し、好事例や失敗からの学びなどの全体での共有化を促進します。とにかく、組織変革の完成への歩みが後戻りしないように、細心の注意を払います。
 
現場部門に配備された実務部隊としての推進メンバーは、この段階では規模の縮小を始めます。定着化が確かなものとなれば、次の仕事ミッションへと移っていきます。
 

 対策2)メンバーを、4つの特質で選出する

変革推進チームは、経営幹部のビジョン策定や意思決定の支援をしたり、現場部門がプランの具体化や日々の問題解決のサポートを行います。
 
変革プロジェクトのフェーズ毎に求められる役割は違ってきますが、優れた推進チームのメンバーは共通の特質を備えています。それらは、支援型リーダーシップ/マーケティング発想/現場ファースト精神/雛形づくり志向の4つです。
 
これらの特質をすでに発揮するメンバーを、社内で簡単に調達できるとは思えません。そうは言っても、それぞれの特質につながるような「兆し」や「期待感」のある人材はたくさん存在するはずです。
 
そのような人材を発掘して、成長支援するという変革推進チームの人材の能力開発も、変革プロセスと同時兵並行で気を配らなくてはなりません。「育つのを待つほどの時間的余裕がない」というのが変革の現場の実態ではあると思うので、外部プロフェッショナルの活用も視野に入ってきます(育てながら、変革を進める)。
 

・支援型リーダーシップ

変革を「自分ごと」と捉える現場リーダーを輩出することが、チェンジマネジメントの肝の一つです。
 
優れた変革推進チームのメンバーは、支援型/コーチング型の影響力に長けていることが特質です。現場のメンバーが、自分自身にとっての変革ビジョンの意味合いを考察し、自分の意思で行動変容を選択するように背中を押すのが巧みです。
 
本人に自律的に考察を重ねてもらい、言語化し、行動を起こすように支えるスタイルで手腕を発揮します。誰もが自然に自分ごとと捉える訳ではありません。ある程度の「誘導」は行いますが、「説明を尽くす・・」のスタイルではありません。
 
それによって、ビジョンが求める行動様式を、彼らなりに理解してもらえるようになります。そして、彼らが、新しい行動様式がロールモデルとなり、組織全体編と浸透していきます。
 
変革ビジョンに懐疑的・非協力的なリーダーも出てきます。現実としては、どこかの局面で、説得/強制/対決のスタイルで対応することも必要です。政治的手腕を発揮する局面も出てきます。
 
しかし、「現場メンバーの自律な考察と行動選択」を支援するコーチングのスタイルを最優先します。不必要な抵抗をできるだけ避けながら、自発的な現場活動を生み出します。
 
 

・マーケティング発想

変革への支持者を多数派にすることが、チェンジマネジメントの肝の一つです。
 
優れた変革推進チームのメンバーは、マーケティング発想のアプローチでの多数派づくりに長けていることが特質です。社内という「市場」に向けて、変革ビジョンという「製品」を体験したもらい、幸せな満足度で「ファン」になってもらう・・そのための策を練るのが巧みです。
 
初期の支持者を獲得し、支持層を広げ、社内の多数派へと育てる・・というプロセスで手腕を発揮します。自ら組み立てた仮説を、限定的な領域で検証し、その結果をもとに軌道修正(ビボット)して、広く展開していく変化適合型のスタイルです。過去に何度も経験済みで成功事例が豊富な「勝利の方程式」は存在しないので、教科書的なPDCAサイクルで管理するスタイルではありません。
 
組織変革では、一人一人の社員や関係者の行動変容が不可欠です。システムや業務プロセスも絡みますが、どうしても「人」の部分が大きいものです。この変容は、制度のように「全社一律・一斉導入」で実現することはできません。
 
組織変革の進行には、時間差や温度差を考慮しなければなりません。先頭を切って動き出すことが好きな人(アーリーアダプター)もいれば、周囲の人々の変容の様子を見てから動き出す人(レイトマジョリティ)もいます。もちろん、徹底的に抵抗を続ける人(アンチ派)もいます。
 
「人がテーマだから、人事部門の専門領域だ・・」と短絡的に考えてしまうのは避けたいところです。人事制度の設計や運用とは違う方法論が求められます。
 
時間差や温度差、人の感情や気まぐれを前提にした変革推進のコツを体系化したのが、チェンジマネジメントの方法論です。社員集団のこれまでの行動パターンを、新しい行動パターンへとシフトさせる考え方/理論背景/ツール/運営手法などの集大成です。
 
このような意味合いから、「社内向け(インナー)マーケティング」「インターナル・ブランディング」と言い換えることもあります。
 
 
 

・現場ファースト精神

行動変容を、現場の多数派で定着化させることが、チェンジマネジメントの肝の一つです。
 
優れた変革推進チームのメンバーは、現場メンバーの大切にしたい価値観・変革への違和感・行動変容への恐怖心などへの配慮に長けていることが特質です。組織変革の成功は、現場の社員や関係者の動きにかかって、彼らの気持ちを汲んだ現実的な推進策を組み立てるのが巧みです。
 
社員の共感を惹きつけて、行動変容の機運を高め、実際の行動にチャレンジしてもらう。このムーブメント作りで手腕を発揮します。「現場の人々にとって、浸透・定着しやすいアプローチは何か?」を常に探求し続けるスタイルです。これは決して、ポピュリズム(人気取り)に走ることではありません。
 
トップが描いた変革ビジョンを組織全体に展開するためには、指示・命令での実現は不可能です。変革ビジョンは大きな方向性を示すだけで、個別の日常業務の進め方までは定義されていません。なので、そもそも指示・命令のしようがありません。
 
それぞれの職場での具体的な施策や活動は、現場のメンバーの洞察力と創造力で自律的に進めてもらわなくてはなりません。常に、組織変革の実行における現場の受け止め方やアイディアや行動に関心を持ち、彼らが最大にパフォーマンスを発揮できるように環境整備をする・・というマインドを高めることが不可欠です。
 
 

雛形づくり志向

 
変革活動がスピーディに展開され定着化する仕組みの確立が、チェンジマネジメントの肝の一つです。
 
変革推進チームのメンバーは、現場のリーダーやメンバーが自律的に変革活動を回していくためのテンプレート(雛形)や管理の標準ツールの構築に長けていることが特質です。
 
現場が自律的に行動変容プランを練り、それを実践し、結果を受けてプランを軌道修正して再トライする・・。このプロセスやカルチャーを全社的に確立させるスタイルで手腕を発揮します。変革ビジョンを抽象的に提示して「あとは現場にお任せ!」というスタイルではありません。
 
それぞれの職場での具体的な活動については、現場メンバーが自律的に検討するのが最も効果的です。それを実施してもらうときの、大まかな方向性・着眼点・検討のプロセス・検証の仕方・軌道修正の考え方などはテンプレート(雛形)として提供します。
 
各人が行動変容プランを検討するときのフローや考察用の書き込みシート、進捗ミーティング用の標準アジェンダや報告書フォーマット、モニタリング項目の共有システムや事例ノウハウ交換のコミュニティなどです。
 

 対策3)推進チームの配置を、社内状況に合わせて選ぶ

組織変革プログラムには、様々なテーマが組み込まれます。例えば、バックオフィス業務のデジタル化とか、業務システムの新規導入とか、買収先の企業との営業部門の統合化とか、技術開発のイノベーションとかです。
 
変革推進チームの構造のあり方には、4つのパターンがあります。チェンジマネジメントの取り組みが必要となる頻度とか、その会社の企業文化(中央集権型or現場分散型)などの要素の絡みでパターンを選択します。
 
 

・プロジェクト限定型

プロジェクト内に変革推進チームを組織し、そのプロジェクトの範囲の中で組織変革のチェンジマネジメントを主導します。例えば、新しい財務システムの社内展開や、営業部門のデジタルマーケティング導入といった特定テーマのプロジェクトです。そのプロジェクトが完了した時には、チームは解散して各メンバーは他の任務につきます。
 
別のプロジェクトが発足すれば、また臨時の変革推進チームが編成されます。
 
チェンジマネジメントの経験が少ない企業や、一度の沢山の数の組織変革プログラムが走ることのない企業で採用されることの多いパターンです。
 
 

・ローカル分散型

組織変革が行われる事業部門や拠点など、それぞれの領域で個別に変革推進チームを組織し、それらが相互独立的にチェンジマネジメントを主導します。
 
互いに相手の存在を意識することもありません。当然ながら、横同士の連絡もありません。
 
それぞれの職場ではそれぞれが好きな形で業務を進めるのがベストで、相互に干渉してもメリットはないと考える企業では採用されることが多いパターンです。
 
このアプローチでは、他所のことを気にする必要がないので、スピード感が優れているという利点があります。しかし、会社全体としては、チェンジマネジメントのノウハウが集約することができないという欠点もあります。
 
 

・全社横断型

本社部門に変革推進チームを組織し、専任メンバーが全社を横串でチェンジマネジメントを主導します。
 
常に社内のどこかの部署や拠点で組織変革の取り組みが走っているような会社では、常設の部門として配備してくことを選択することが多いです。
 
全社横断の中枢部門の位置付けです。個別プロジェクトのチェンジマネジメントを推進するのに加え、全社共通の方法論の開発・好事例の収集・変革ノウハウの蓄積などを行います。
 
 

・折衷型

全社横断の中枢部門による実施ガイドラインや標準ツールの整備に基づき、各ローカルに配備された変革推進チームがチェンジマネジメントを主導します。全社横断型とローカル分散型のいいとこ取りです。
 
中央集権と現場移譲の線引きはそれぞれの企業での状況で異なりますし、時間進行とともに柔軟に修正することもできます。
 

 クローズ)変革推進チームには、アジャスト能力が大切

組織変革とは、非常に複雑です。取り組みがスタートして、人々や業務プロセスに影響を及ぼし始めると、思いも寄らない様々な出来事が発生します。滞りなく進捗・・という世界ではありません。
 
うまく機能する変革推進チームは、組織変革の局面に合わせて、自分たちの組織形態や役割をアジャストしていきます。
 
そして、効果のあった施策の本質を見極め、その特徴を組織全体に広めていきます。チャンジマネジメントの取り組みの中で、中央集権化すべき部分とローカル分散化すべき部分の見極め方や運用におけるガバナンスのあり方などのノウハウを蓄積します。